40歳からでも間に合う。現実的な老後資金5000万円の作り方

「老後資金5000万円」。この金額を聞いて、途方もない目標だと感じてませんか?特に40歳になり、まだ十分な準備ができていないと感じている方にとっては、「毎月、家計を圧迫するような高額な投資をしないと無理なのでは?」「リスクの高い金融商品に手を出さなければ達成できないのだろうか?」といった不安が頭をよぎるかもしれません。しかし、ご安心ください。適切な知識と計画、そして少しの工夫によって、40歳からでも十分に現実的な方法で、この目標を目指すことは可能です。

なぜ今、これほどまとまった老後資金が必要と言われているのかを紐解き、5000万円という目標金額に無理なく到達するための考え方や、具体的なシミュレーションパターンをご紹介します。資産形成において本当に大切なこととは何かについても触れていますので、ぜひ最後までお読みいただき、ご自身の老後資金準備の参考にしてください。

なぜ「老後資金5000万円」が必要と言われるのか?背景にある社会構造の変化

まず、「老後資金として5000万円、あるいはそれ以上の金額が必要になるかもしれない」といわれるようになったのでしょうか。その背景には、主に日本の公的年金制度を取り巻く環境の変化と、定着しつつある物価上昇(インフレ)という二つの大きな要因があります。

日本の公的年金制度は、少子高齢化の進行により、現役世代の負担が増え、将来の高齢者が受け取る年金額が減少傾向にあることが指摘されています。政府は5年ごとに年金財政の現状と見通しを公表していますが、2024年の財政検証結果からは、経済成長が進む楽観的なケースでも、将来の年金受給者の所得代替率(現役世代の手取り収入に対する年金の給付水準を示す指標)が低下する見通しが示されています。経済が低成長で労働参加も進まないといった厳しいケースでは、この所得代替率がさらに大きく低下する可能性も示唆されています。つまり、将来的に公的年金だけで現役時代と同水準の生活を維持することが難しくなる可能性が高まっているということです。物価が上昇しても年金額がそれほど増えない状況では、年金以外の自助努力による資産形成の重要性が増しています。

もう一つの要因は、物価上昇、すなわちインフレです。消費者物価指数(生鮮食品を除く)は2023年には前年比3.1%上昇と41年ぶりの高い伸びを記録し、2024年も前年比2.5%上昇と高い水準で推移しました。物価水準は着実に上昇しており、長期的に見れば私たちの購買力に影響を与え続けます。このような物価上昇は、現在の生活コストを押し上げるだけでなく、将来必要となる生活資金も確実に増加させます。特に数十年後の生活を見据える老後資金においては、インフレによる資産価値の目減りを考慮することが不可欠です。

かつて大きな話題となった「老後2000万円問題」は、現在の物価状況を踏まえると、すでに十分ではないという見方も出てきており、最近では「老後4000万円問題」として語られることもあります。この「4000万円」という金額は、将来のインフレを考慮した場合に、2000万円に相当する購買力を維持するために必要となる金額といわれています。ただし、高齢者世帯の近年の家計収支データでは、かつて指摘されたような大きな赤字額ではなくなっていることや、インフレ率が今後も高い水準で推移し続けるとは考えにくいといった見方もあります。本記事で目標とする「5000万円」という金額は、これらの状況や不確実性を考慮し、より安心感をもって老後を迎えるための少しゆとりを持った目標という位置づけです。

老後資金5000万円を「無理なく」作るための考え方

「老後資金5000万円」という金額だけを見て圧倒される必要はありません。この目標を「無理なく」達成するために最も重要な考え方は、「65歳になった時点で、現金でまるごと5000万円を用意しておく必要はない」ということです。

老後資金が必要となるのは、リタイア後の生活費として、少しずつ取り崩していくためです。そのため、まとまった資金が必要となる特別なイベントの予定がないのであれば、その時点で全額現金で保有している必要はないのです。

例えば、40歳から65歳までの25年間で、積立だけで5000万円を準備するためには、単純計算で毎月約16.7万円の積立が必要です。これを毎月貯金できる方は多くないと思いますが、「全額現金で保有している必要はない」という考え方を元に、資産運用を活用することで、もっと現実的なプランニングを行うことができます。

また、将来の不安から現在の生活を極端に切り詰めるのではなく、現役時代も老後も、どちらの期間も豊かに過ごせるよう、資金計画にバランスを持たせることも大切です。後になって「若い頃にもっとやりたいことをやっておけばよかった」「お金を経験に使うことを躊躇しなければよかった」と後悔することがないよう、今のうちから将来を見据えた計画を立て、準備を進めることが、後悔のない人生を送るためにも重要だと言えるでしょう。

40歳からでも現実的な老後資金シミュレーションパターン:月3万円以下も可能に?

それでは、具体的に老後資金5000万円(またはそれに相当する金額)を準備するために、どのような方法が考えられるのでしょうか。

目標達成時期を65歳と70歳に設定し、90歳まで年間200万円取り崩すシミュレーションを見ていきます。シミュレーションの前提として、資金を運用する場合の利回りは年率4%と仮定します。

パターン1:貯金だけで準備する場合

このパターンでは、資金を一切運用せず、貯金として確保しておき、そこから毎年200万円ずつ取り崩して生活するケースを想定します。この場合、目標時点(65歳または70歳)で必要となる元本は、取り崩し期間分の総額となります。

  • 65歳時点で必要な金額: 5000万円(65歳から90歳までの25年間、年間200万円)
  • 70歳時点で必要な金額: 4000万円(70歳から90歳までの20年間、年間200万円)

40歳から、それぞれの目標を達成するために毎月積み立てる必要のある金額は以下のようになります。

  • 65歳時点で5000万円を目指す場合(25年間積立): 月16.7万円
  • 70歳時点で4000万円を目指す場合(30年間積立): 月11.1万円

毎月10万円、ましてや15万円を超える積立額は、40代の家計にとってはかなりの負担に感じられる方が多いのではないでしょうか。貯金だけでこの目標を達成するのは、かなり難易度が高いといえます。

パターン2:資産運用しながら準備する場合

次に、現金貯金ではなく、資産運用を活用する場合を想定します。目標時点(65歳または70歳)で必要となる元本はパターン1と同様です。

  • 65歳時点で必要な金額: 5000万円
  • 70歳時点で必要な金額: 4000万円

40歳から運用利回り4%で積立投資を始めた場合、これらの目標を達成するために毎月積み立てる必要のある金額は以下のようになります。

  • 65歳時点で5000万円を目指す場合(25年間積立): 月9.7万円
  • 70歳時点で4000万円を目指す場合(30年間積立): 月5.8万円

パターン1と比較すると、必要な積立額がかなり抑えられていることがわかります。資産運用を活用することは、目標達成を現実的にする上で非常に効果的だということがわかります。

パターン3:運用しながら取り崩す場合

さらに、老後資金を取り崩していく際にも、年率4%で運用を継続する場合を想定します。資産が目減りするスピードを緩やかにできるため、目標時点(65歳または70歳)で準備しておく必要のある金額は大幅に少なくなります。

  • 65歳時点で必要な金額: 3200万円
  • 70歳時点で必要な金額: 2800万円

40歳から運用利回り4%で積立投資を始めた場合、これらの目標を達成するために毎月積み立てる必要のある金額は以下のようになります。

  • 65歳時点で3200万円を目指す場合(25年間積立): 月6.2万円
  • 70歳時点で2800万円を目指す場合(30年間積立): 月4.0万円

こちらを見ていただくと、特に70歳まで積み立てするシミュレーションについてはかなり現実的に考えることのできる金額になっているのではないでしょうか。

さらに、現在保有している貯金の一部を初期投資に回すことも検討できます。仮に40歳時点で300万円を初期投資として運用に回したとすると、70歳時点で2800万円準備するために必要な積立金額は月2.6万円程度で済むというシミュレーションになります。このように、いつまでにいくら必要なのか、そしてそれを「どのように使っていくか」という視点を持ち、資産運用も活用しながらプランニングすることで、老後資金の目標達成が現実的になります。

資産形成で本当に大切な考え方:投資先探しより「家計の見直し」が先決

資産形成を始めようと思ったとき、多くの人がまず「何に投資すれば一番儲かるのだろう?」と、運用先の情報収集に一生懸命になりがちです。もちろん、より高いリターンを目指すことは資産を早く増やす上で魅力的に映ります。しかし、資産形成において、儲かる投資先を探すことよりも先にやるべきは「家計の無駄を見直すこと」です。

家計の無駄を削減することと、儲かる投資先を見つけることは、どちらも将来の資産を増やすという点では同じ効果をもたらします。しかし、その「確実性」が決定的に異なります。市場の動向や個別の投資先のパフォーマンスは、専門家でさえ正確に予測することは容易ではなく、リターンは不確実です。一方で、家計の見直しによって無駄な支出を削減することは、その分だけ手元に残るお金を確実に増やす方法です。

単に「儲かる」投資先を探し続けるよりも、足元の家計を確実に改善する方が、長期的な資産形成において強固な土台となることは間違いありません。無理な我慢を伴う節約ではなく、無駄がないかを見直す視点が、堅実な第一歩です。生命保険料、通信費、住宅ローンなどの固定費は家計の見直しにおいて、特に効果が出やすい支出項目です。家計の無駄がある状態を放置して、いくら一生懸命に投資先を探して資産を増やそうとしても、それは「穴の開いたボートを一生懸命漕いでいる」ようなものです。まずは足元の穴を塞ぐことが、確実に資産を形成するための最も基本的なアプローチです。

「老後5000万円なんて準備が間に合わない…」と諦める必要は全くありません。今回ご紹介したように、計画的な資産運用、今ある貯金の有効活用、家計の無駄を見直しなどを実行し、40歳からでも老後資金5000万円という目標を現実的に目指すことが可能です。今日から一歩を踏み出し、将来の安心のために賢く準備を進めていきましょう。